貧血は鉄不足ばかりではない

血が足りないことを昔から貧血と呼びますが、医学用語の貧血は赤血球の中に含まれる血色素(ヘモグロビン)が足りないことを指します。赤血球(ヘモグロビン)の働きは酸素を運ぶことで、これが不足すると体の隅々に酸素が十分届かなくなり、様々な症状が現れます。

めまい ≠ 貧血

一般用語で「めまい・立ち眩み・失神」や「低血圧」などの症状を「貧血」と呼ぶことがありますが、これは医学的には正しくありません。「めまい・立ち眩み・失神」は貧血のときにみられる症状の一部ですが、軽度の貧血ではこれらの症状を感じないことが多く、逆に「めまい・立ち眩み・失神」の原因として貧血以外の場合も多いので、混同しないように注意が必要です。

貧血の検査データ

ヘモグロビンの正常範囲は施設や測定器によって多少違いがありますが、概ね男性は13.5~17.0、女性は11.5~14.5位で、この下限を下回ると血が少ない「貧血」、逆に上限を上回ると血が多い「多血症」となります。

上は男性の血液検査結果の一例です。赤血球数、ヘモグロビンの下のヘマトクリットは、血液の中で赤血球が占める体積の割合(%)を表したもので、簡単に測定できるので昔はよく貧血の判定に使われました。その下のMCVは平均赤血球容積(赤血球1個の大きさの平均)、MCHは平均赤血球ヘモグロビン量(赤血球1個の中に含まれるヘモグロビン量)、MCHCは平均赤血球ヘモグロビン濃度(赤血球中のヘモグロビンの濃度)です。これらの数字は普段気にする必要はありませんが、貧血が見つかった(=ヘモグロビンが少ない)場合には意味を持ってきます。貧血と言われたら、ヘモグロビンだけでなくMCVにも注意してみましょう。

最も多いのは鉄欠乏性貧血

貧血のほとんどは鉄欠乏性貧血です。鉄は体内でヘモグロビンを作るのに不可欠な元素で、食品からの栄養素として適量(成人男性で数mg、閉経前の女性で十数mg)を摂取する必要があります。食品から摂取する鉄の量が、身体から失われる量より少ないと、体内の鉄が不足して十分なヘモグロビンを作れなくなり、鉄欠乏性貧血となります。

鉄欠乏性貧血が見つかった場合には、栄養のバランスをチェックすると同時に、身体から鉄が過剰に失われていないか確認します。胃潰瘍や胃癌、大腸ポリープ、大腸癌などの消化管の病気があると気づかぬうちに少しずつ出血して鉄が失われる事がありますので、検便や胃カメラ、大腸カメラなどの検査が必要になります。鉄欠乏性貧血の場合は通常は赤血球の大きさが小さくなり、血液検査ではMVC(平均赤血球容積)が低下します。

MCVが低くなければ鉄欠乏以外の原因を疑う

MCVが低い貧血を小球性貧血、MCVが正常の貧血を正球性貧血、MCVが高い貧血を大球性貧血と呼びます。上でも述べたように、鉄欠乏の場合は小球性貧血になるはずなので、正球性や大球性の貧血の場合は鉄欠乏以外の原因を検索する必要があります。

鉄欠乏以外の貧血ならば、食事や薬でいくら鉄分を補っても改善しませんので、適切な治療を選択するためにも原因を見極めることが重要です。下の表は貧血の主な原因ですが、これ以外にも様々な病気がありますし、複数の原因が入り混じった病態も存在します。その中で、主なものをみていきましょう。

赤血球や白血球、血小板などは骨髄で作られていますが、骨髄そのものの病気(白血病や多発性骨髄腫、再生不良性貧血など)では正球性貧血になります。また、骨髄で赤血球を作るためには腎臓から出てくるエリスロポイエチンといホルモンが必要ですが、腎臓が弱ってエリスロポイエチンが不足して骨髄で赤血球が作られなくなったのが腎性貧血で、この場合も正球性貧血になります。

赤血球を作るためには、葉酸やビタミンB12も重要で、大球性貧血の場合は真っ先にこれを疑います。葉酸は、赤血球の生産を助けるだけでなく細胞の代謝に深く関与しており、DNAやRNAなどの核酸やたんぱく質の生合成を促進し、体の発育にも重要なビタミンで、野菜、肉、豆などいろんな食材に含まれています。
ビタミンB12はアミノ酸代謝、DNAやRNAなどの核酸代謝、葉酸の代謝に関わっており、赤血球の産生だけでなく脳神経系の機能維持にも欠かせません。ビタミンB12は野菜や穀物、豆類などの植物性食品にはほとんど含まれていない一方で、さまざまな魚介類や肉、一部の海藻類に多く含まれています。

ビタミンB12不足の原因と治療

大球性貧血の中ではビタミンB12欠乏によるものに比較的よく遭遇します。他院で貧血と言われて鉄剤を処方されていたが治らず、当院に来られてからビタミンB12の注射を開始したところ貧血が改善した患者さんが、今年だけで2人ありました。

ビタミンB12は比較的不足しにくい栄養素と考えられていますが、極端な菜食主義によって不足する場合があります。また、ビタミンB12を吸収するためには胃液の中に含まれる内因子という成分が必要ですが、胃癌で胃を切除したあとや、自己免疫などが原因で内因子が欠如(悪性貧血)すると、食事に含まれるビタミンB12を吸収できなくなり、欠乏による大球性貧血や脳神経の病気を発病することがあります。吸収不良が原因の場合は内服薬でビタミンB12を補っても効果が得られにくいので、注射で投与する必要があります。

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