桜とアンチエイジング

コロナウイルス感染の第6波が落ち着き、当院かかりつけの患者さんへの第3回目ワクチン接種もひと段落しました。この間、いろいろとお伝えしたいことはあったのですが、なかなか更新する時間が取れず時期を逸してしまいました。さて、春を迎えて心機一転、ちょっとひねくれた視点から桜を眺めてみました。

桜と街の賑わい

1月から猛威をふるったオミクロン株によるコロナ感染第6波は、ピークを過ぎてからも感染者数が下げ止まり、そればかりか再増加の兆候さえちらついています。そんな、なかなか気が休まらない中でも3月21日には蔓延防止等重点措置が解除され、ちょうど同じころからチラホラと桜が咲き始め、京都の街も観光客の賑わいが戻ってきました。写真は4月初め、京都一周トレイルの東の起点となる深草トレイルの途中、伏見桃山城の桜です。

ところで桜と言えば、古今和歌集にはこんな歌があります。
霞立つ 春の山辺は 遠けれど 吹きくる風は 花の香ぞする(在原元方)
(遠くの山は春霞でぼやけているけれど、風のお陰で桜の香りを楽しめるよ)

昔の平安京では桜は山にあって、遠くから眺めて楽しむものだった様子がうかがえます。

古今和歌集の成立は西暦900年ごろですが、古今集より百数十年後の後拾遺和歌集では
花見にと 人は山辺に 入りはてて 春は都ぞ さびしかりける(道命法師)
(花見で人はみな山辺に行ってしまい、春には都は寂しいものだ)

この時代になると桜は、遠くから眺めるのではなく京の街を離れて山に見に行くものになったようですが、現代の京都は花見の時期に街中がにぎわいますから、反対ですね。

さて、花見というと桜が我々のイメージですが、そのルーツは奈良時代の貴族が始めた行事で、中国から伝わった梅の花を観賞しながら歌を詠むものだったそうです。桜の花見が始まったのは平安時代とされています。「日本後紀」には、嵯峨天皇(786~842年)が弘仁3年2月12日(西暦812年3月28日)に京都の神泉苑で「花宴の節」を催したとの記述があり、これが記録に残る最も古い桜の花見と言われています。

それでは、奈良時代の人が桜を愛していなかったかというと決してそうでは無く、万葉集にはこんな歌も。
あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいと恋ひめやも(山部赤人)
(山桜が幾日も咲き続けていたらこんなに恋しいとは思わないだろう)

古くから日本人は、桜が潔く散る様に魅せられていたのですね。ところで、日本にはサクラは固有種を含めて基本の野生種が10〜11種あり、その変種を合わせると100種以上の自生種があります。さらに古くから改良開発されてきた栽培品種が少なくとも200種以上(分類によっては600種とも)あるそうです。

山桜、花より外(ほか)に知る人もなし

と詠んだのは前大僧正行尊ですが、最近山を歩いていて目にする桜もソメイヨシノなどの栽培品種が多く、山桜はあまり見かけません。山を遠くから眺めると緑の中に山桜と思しき淡いピンク色が点在しているのですが、近くに行くと見当たらないのです。

何故か地面には桜の花びらが落ちているので不思議に思ってキョロキョロ探していると、勢いよく茂り始めた新緑のさらに上に、木の葉の隙間からピンクの花がチラチラ見えました。人の手が加えられていない桜は、他の木に負けないように高く成長して、人の目に触れにくいほど高いところで花を咲かせていたのです。代わりに(?)山ツツジが比較的低木で目線に近いところで咲いて、目を楽しませてくれます。(写真は京都の愛宕山、つつじ尾根)

山桜のように自生している桜は花を咲かせ実を結び、その実が地面に落ちて芽を出し、子孫を残して数を増やしていきます。しかし、栽培品種の桜は挿木や接木で増やされる事が多く、実生(みしょう)は少数派です。挿木や接木では同じ性質の木、つまり同じ様に綺麗な花を咲かせる木を容易に増やす事が出来ます。

桜とクローン

全国で植えられている桜の80%がソメイヨシノだそうですが、その全てが同じDNA(遺伝子)を持つクローンであることが確認されています。ソメイヨシノは江戸時代末期に染井村(現在の東京都豊島区駒込)の植木職人がオオシマザクラとエドヒガンという2種類の桜を交配させて作ったとされています。作られた当時は、桜が有名な奈良の吉野山にちなんで「吉野桜(ヨシノザクラ)」と呼ばれていましたが、吉野山とは何の関係もありません。

明治以降ソメイヨシノは接ぎ木によって全国に植えられました。接ぎ木で増やされた木は同じ遺伝子を持っているクローンに他なりません。しかもソメイヨシノは、同種同士の自然交配によっては実がならず子孫を残すことができません。つまり、ソメイヨシノは人間が接木や挿木をしなければ増えることができないのです。(ソメイヨシノの起源については他の説もあります)

接木(クローン)で増やされた木は、自然の競争(実を結び、強い実だけが芽を出し、生き残ったものが子孫を残す)にさらされていないため、環境の変化や病気に弱い傾向があります。さらに、動物ではクローンで作成された個体は短命であることが知られています。

しかし、接木されたソメイヨシノはあちこちで大木となり、まだまだ増え続けています。一時ソメイヨシノの寿命は60年で、戦後に植えられた木が一斉に寿命を迎えるという説がありましたが、どうやらそこまで短命ではない様です。

動物のクローンと植物のクローンで大きく違うのが、テロメアテロメラーゼの働きです。動物の体はたった一つの細胞(受精卵)が分裂を繰り返して形作られます。細胞が分裂するときには遺伝子が複製され、分裂した細胞の両方ともに同じ遺伝子が引き継がれます。遺伝子は体の設計図とも言われ、体を作るために必要な情報が全て含まれていますので、分裂して新しく生まれた細胞にその設計図のコピーが渡されるわけです。

老化の鍵を握るテロメアとテロメラーゼ

遺伝子(DNA)を複製するときは、元のDNAを鋳型にしてDNAを並べて繋ぎ、同じものを作るのですが、一番端っこは複製できない部分があり、複製するたびに少しだけ短くなってしまいます。いわば、設計図のコピーを作ったけど端っこはうまくコピー出来ずに削られてしまうわけです。

それでは困るので、端っこが削られてもいいように、十分な余白を持たせてあります。DNAの末端でこの余白にあたる部分をテロメアと呼びます。テロメアがあるおかげで、細胞分裂の際にDNAの末端が少々削られて短くなっても、設計図として必要な部分は保たれますから、新しく生まれた細胞の働きに支障はありません。

しかし、何十回と細胞分裂を繰り返すうちにDNAがどんどん削られて短くなり、テロメアを使い果たしてしまうと、細胞はそれ以上分裂できなくなります。ヒトの細胞は50回くらい分裂すると限界を迎えることがわかっています。このように細胞分裂を繰り返すうちにテロメアが短くなる事が、動物の老化の一因と考えられています。

(1)遺伝子()は2重鎖のDNAで出来ている。
(2)これを複製するためには、2重鎖をほどいて1本鎖にする
(3)1本鎖のそれぞれにRNAプライマー()がくっつき、そこからDNAの合成が始まる。合成は矢印方向にしか進めない。
(4)DNAの複製が終了しても、末端は複製されていない
(5)末端のRNAプライマーが分解され、出来上がった新しいDNA()は最初の物()より末端が短い
(6) 何度も複製を繰り返すと徐々にDNAが短縮して、最後は複製できなくなる

実は生物には短くなったテロメアを修復する働きも備わっており、これをテロメラーゼと呼びます。動物ではテロメラーゼは生殖細胞(精子や卵子)と癌細胞の中だけで働いており、普通の細胞の中では働きが止められています。クローンで作られた動物は、元になった細胞(受精卵から数えると既に何度も分裂した後)と同じ長さのテロメアしか持っていない、老化したDNAを持って生まれてくるため寿命が短いのです。

植物では普通の細胞の中でもテロメラーゼが働いており、細胞分裂してもテロメアが短くならない事がわかっています。このため植物の細胞は無限に細胞分裂を繰り返せる可能性があり、接木で増やされたクローンのソメイヨシノのDNAもテロメアの観点からは老化していないのです。

テロメラーゼの研究がもっと進めば、動物での細胞分裂の限界を延ばして究極の老化防止に繋がるかもしれませんね。

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