ワクチン開発の展望(1)

新型コロナウイルスの脅威が本当の意味で終息するには、世界中で多くの人が免疫を獲得して、ウイルスが増殖する場がなくなること(集団免疫の成立)が必要です。しかし、感染抑制に成功して感染者数を少なく抑えることに成功すれば、免疫を持った人は増えないため終息までにより長く時間がかかります。感染者数を少なく抑えたまま終息させるためには、ワクチンが不可欠なのです。

現在世界中で多くの研究機関や製薬会社、ベンチャー企業がワクチン開発に力を注いでおり、すでにヒトに投与する臨床試験が始まったものもありますが、多くの人々がワクチンの恩恵を受けられるようになるのは残念ながらまだまだ先で、早くとも来年後半以降ではないかと予測されています。 ここで、少しワクチンについての基礎知識を勉強してみましょう。

ワクチンの始まり

ワクチン(vaccine)という言葉はラテン語で牛を意味する“vacca” から来ています。世界で初めてワクチンによる病気の予防法を発明したのは、イギリスの医師エドワード・ジェンナー(1749年-1823年)で、牛痘を接種することで天然痘を予防する種痘法を確立しました。それ以前に天然痘患者の膿疱から抽出した液を健康な人間に接種する人痘法がありましたが、接種された人の2%は重症化して死亡するという危険を伴っていました。牛痘によって人々は安全に天然痘を予防できるようになったのです。

ワクチンの種類

ワクチンの目的はヒトの免疫系に病原体の特徴を人為的に認識させて、病原体に感染した時に素早く免疫系が作用して発病を阻止できるように準備しておくことです。現在使われているワクチンは弱毒生ワクチン、不活化ワクチン(ここではトキソイドも含む)の2種類があります。

生ワクチン

弱毒生ワクチンは生きた病原体(ウイルスや細菌など)を生かしたまま毒性を減らして、人に感染はするが発病しないか極めて軽症で済むように、いわば品種改良したものです。現在使われている生ワクチンには、ロタウイルス、結核(BCG)、麻しん(はしか)、風しん(3日はしか)、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、黄熱病などがあります。

体内では自然感染と同じ反応で免疫ができるので、次に述べる不活化ワクチンよりも強い免疫を作ることができます。それでも自然感染より免疫力が弱いので、2~3回の反復接種や5~10年後の追加接種が必要なものもあります。生きた病原体は「弱毒」であっても「無毒」ではないので、副反応としてもともとの病気のごく軽い症状がでることがあります。

不活化ワクチン

免疫系が病原体を認識する成分だけを精製して、病原性(毒性)を完全になくしたものです。現在不活化ワクチンが使われているのは、B型肝炎、ヒブ感染症、肺炎球菌、百日咳、ポリオ(小児麻痺)、日本脳炎、インフルエンザ、A型肝炎、髄膜炎菌、狂犬病などがあります。

ジフテリア、破傷風(はしょうふう)など、細菌の産生する毒素(トキシン)を取り出して、毒性をなくして免疫を作る能力だけを残したもの(トキソイド)もあります。

病原体に感染するわけではないので、接種してもその病気になることはありませんが、できる免疫は生ワクチンに比べて弱く、複数回繰り返して接種することが必要です。

新しいワクチン(核酸ワクチン)

DNAワクチンという全く新しいメカニズムのワクチンも研究されています。DNAワクチンは、病原体を構成する成分のうち免疫細胞が認識する部分の設計図となる遺伝子DNAをワクチンにしたもので、遺伝子ワクチンとも呼ばれます。DNAワクチンを投与すると、DNAの指示にしたがって病原体の一部であるタンパク質(抗原)が合成され、それに対する免疫ができて病原体を攻撃するようになるもので、新しい技術として注目されています。

新型コロナウイルスに対するワクチンの候補としても研究されていますが、DNAワクチンそのものがまだまだ研究途上の技術ですので、有効性や副作用にして注意深く情報を見ていく必要があります。

DNAワクチンには、細胞のゲノムに組み込まれて接種された人の遺伝子変異を引き起こす危険性や、抗DNA抗体が産生される危険性なども指摘されており、その欠点を失くすRNAワクチンも研究が始まっています。

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