腎機能の検査、クレアチニンとeGFR
血液検査で腎機能を評価する項目にクレアチニンがあります。男性の正常値は(施設によって違いがあるかも知れませんが)この健診センターでは0.61~1.04でした。
最近はクレアチニンと年齢、性別から計算したeGFR(推算糸球体濾過量、単位はmL/min/1.73m2)というのも腎機能の評価によく使われ、クレアチニンと併記されていることも多いと思います。eGFRは60以上であれば概ね問題なしと判定されます。
eGRは、腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示しており、この値が低いほど腎臓の働きが悪いということになります。若い成人の正常値は100程度で、加齢によって毎年少しずつ低下していきます。eGFRが15以下に低下すると体に溜まった老廃物や毒素のために生体機能を維持しにくくなり、末期腎不全や尿毒症と呼ばれます。こうなると老廃物や毒素を人工的に取り除く透析や腎臓移植等の治療を検討する必要が出てきます。

eGFRは下記のサイトで、年齢、性別を入力すると計算できます。
日本腎臓病協会 https://j-ka.or.jp/ckd/check.php
eGFRは低下速度にも注意を
ここからは実際にあった、当院にかかりつけの高血圧の患者さんのお話です。この方は毎年職場で定期健診を受けていて、そのデータを持って来られます。
いつも血圧については「治療を継続して下さい」というコメントがついていますが、その他は「異常なし」でまずまず優等生という判定です。ところが55歳の時、「異常なし」とされていた腎機能の数値に違和感を感じました。
この年のクレアチニンは1.01、eGFRは60.8で「異常なし」の判定でした。しかし、以前のデータと並べてみると・・・
7年前 クレアチニン 0.70 eGFR 87.0 3年前 クレアチニン 0.79 eGFR 80.8 1年前 クレアチニン 0.89 eGFR 70.1 その年 クレアチニン 1.01 eGFR 60.8
7年前から3年前までは4年間でeGFRが6.2低下、1年あたりにすると1.5ずつ低下していることになります。その後の2年間で10.7低下(1年あたり5.35)、そしてその後は1年間で9.3低下と、低下速度が加速していたのです。直近の3年間で20低下という事は、この勢いで低下し続けるとあと7~8年でeGFRは15以下の末期腎不全状態にまで低下してしまい、透析が必要になるかも知れません。

eGFRがある程度まで低下すると、腎臓の治療はますます難しくなっていくので、今のうちに手を打つ必要があります。この単年の数値だけを見ていると「異常なし」の判定になりますが、この低下速度の加速を見逃して「異常なし」と済ませることは非常に危険なのです。
3年前以降で腎機能の低下を加速させる何かがおきていることが疑われ、まずはそれが何なのかを突き止めねばなりません。実はこの患者さんは2年前に下血で入院して、それをきっかけに珍しい病気が見つかっていました。その病気は腎臓とは直接関係ないのですが、病気の経過観察のために造影剤を使ったCTを繰り返し撮っており、その造影剤が腎機能に悪影響したのではないかと推測されました。
このことをご本人に説明し、腎機能の低下が加速していることを病院の担当医と相談、今後は腎機能に配慮して造影剤を使った検査を極力避けて経過を観ることになりました。
健診を毎年受けておられる方は、その年の数値が異常であったかどうかだけでなく、eGFRの低下速度にも注意してみて下さい。もし「異常なし」の判定であっても低下速度が速い場合は腎臓に詳しい医師に相談されることをお勧めします。
この記事へのコメントはありません。