新型コロナウイルス感染の終息が見通せないまま秋を迎えました。コロナウイルスとインフルエンザの同時流行への不安から、今年は例年より早くインフルエンザワクチン接種が始まりましたが、これに対して「早く打ったら早く効果が切れてしまうのでは?」と不安の声も聞こえます。
インフルエンザワクチンの効果は本当のところ、どれくらい持続するのかを検証したメタ解析(多くの論文の結果を集めて総合的に解析した研究)の結果が2018年の米国感染症学会誌に掲載されていましたので、ご紹介します。
この論文によるとA型H3とB型に対する予防効果はワクチン接種後91日以降では有意に弱くなり、A型H1に対する予防効果も91日以降で弱まる傾向でした。
A型H1とかH3って何のこと?
A型インフルエンザウイルスはその表面にヘマグルチニン(HA)というたんぱく質とノイラミニダーゼ(NA)というたんぱく質を持っています。HAにはH1~H16までの16種類、NAにはN1~N9までの9種類が知られており、その組み合わせによってさまざまな亜型に分類されます。理論上は16x9=144種類が存在しますが、近年ヒトに感染して流行を起こしているのは、H1N1(Aソ連)、H3N2(A香港)の2種類です。
20世紀以降にパンデミックとなったA型インフルエンザは1918年のスペイン風邪、1977年ソ連風邪や2009年の新型インフルエンザは“H1N1”、1957年のアジア風邪は“H2N2”、1968年の香港風邪は“H3N2”で、三つの組み合わせしかありません。その他、鳥インフルエンザでは一時問題になったH7N9や、高病原性として恐れられているH5N1型などがあります。
B型インフルエンザウイルスにはHAとNAがそれぞれ1種類しかなく、H?N?という亜型は存在しません。実はC型インフルエンザウイルスというのもありますが、表面抗原はヘマグルチニンエステラーゼ(HE)しか存在せず多様性が乏しく、軽いかぜ症状のみ流行はおこしません。
結論:インフルエンザワクチンの予防効果持続期間は
今年のワクチンの株は、A型がH1N1とH3N2、B型がB/PhuketとB/Victoriaの4種類ですが、上記の論文によるとA型H3N2とB型に対する効果は3ヶ月が過ぎると減弱し、A型H1N1に対する効果も3ヶ月を過ぎると減弱する傾向があります。
経験的には、寒い時期にA型が流行り、それが落ちついてきた春先ごろにB型が流行ることがよくありますが、これって実は年末に打ったワクチンのB型に対する効果が3月ごろに弱まるからではないかとも想像しますが、確証はありません。
実際には個人差が大きく、ブースター効果(ワクチン接種後にウイルスに接触すると免疫が強化される現象)などの影響もあるため、有効期間を一律に示すことは出来ませんが、早くからワクチンを打って、流行が始まらないまま3ヶ月以上過ぎると、ワクチンの効果が弱まる恐れがあることは注意すべきでしょう。
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