新型コロナウイルス感染へのマスクの効用

日本でも10月以降再び新型コロナウイルス感染者が増加に転じ、最近では1日辺りの感染者数が過去最高を更新し続けている自治体も少なくありません。

感染拡大を押さえ込むために、三密の回避、マスク着用、宴会の縮小・自粛など様々なことが提言されていますが、一方でマスクを強制されることに不快感を訴える人もおられます。

マスクの効用について、昨日のNHKスペシャルでマスクに関して興味深い論文が紹介されていましたのでご紹介しましょう。

Masks Do More Than Protect Others During COVID-19: Reducing the Inoculum of SARS-CoV-2 to Protect the Wearer
J Gen Intern Med 35(10):3063–6
https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-020-06067-8

マスクは他者に感染させるリスクを減らすだけでなく、ウイルスの曝露量を減らすことで、装着者自身を守ることに繋がるというものです。この論文の中では「マスクをすることによってウイルスの曝露量が減ると、少量ずつウイルスを取り込むことで、症状が出ないまま免疫を獲得できる割合が増える」という可能性を示す論文が複数引用されていました。無症状の感染者は感染拡大の一因にもなりますが、無症状のまま免疫を獲得できる人が増えれば、重症者を増やさずに集団免疫に近づくことが出来ます。

ひとつめは、透析室からの報告です。
Asymptomatic Seroconversion of Immunoglobulins to SARS-CoV-2 in a Pediatric Dialysis Unit
  JAMA June 16, 2020 Volume 323, Number 23
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766215

透析室は週3日、それぞれ数時間空間を共有して透析を受ける必要があるため、コロナウイルス感染が拡大しやすい条件下にあります。この論文はインディアナ州の小児透析室で経時的に抗体陽性率を追ったもので、マスク(だけでは無いかもしれませんが)等の感染防御を行う環境下では、無症状のまま抗体陽性者(免疫がある人)の割合が増えていくことを報告しています。

もう一つはクラスターが発生したクルーズ船からの報告です。
COVID-19: in the footsteps of Ernest Shackleton
Thorax 2020; 75 613-613
https://thorax.bmj.com/content/75/8/693

Ernest Shackletonの南極探検の足跡をたどるクルーズ船でクラスターが発生し、乗員乗客217名全員について新型コロナウイルスのPCR検査を行った報告です。この船では乗客全員がサージカルマスク着用を指示され、乗組員はより高性能なN95マスクを着用していました。その結果、217名中128名の感染がPCR検査で確認されましたが、症状があったのは24名(19%)だけで、その他の81%は無症状で済みました。マスク等の対応が遅れたダイアモンドプリンセス号では無症状で済んだ人は感染者の18%しかいませんでした。

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