新型コロナウイルス感染が拡大する中で、個人の健康管理が重要であるとの認識が広まり、毎日体温を測っている人が増えました。そんな中で、猛暑の時期に熱を気にする相談が相次ぎました。
「いつも朝は36.4度位だけど昼ごろから体温が上がってきて夕方には37.2度に上がっている。コロナウイルスに感染しているのではないでしょうか」
こういう相談をされる患者さんで、以前から朝昼夕と体温を測っていた方はまずおられませんが、元々人間の体温には日内変動があり、早朝が最も低く日中徐々に上昇して夕方ごろに一番高くなります。
上記のような相談をされた患者さんも、コロナウイルス騒動が広がる前から同じような日内変動があって、夕方には37度強に体温が上がっていた可能性が高いのです。
一日の中で体温が変動する理由
体温は、安静時にもエネルギーを消費する基礎代謝と、運動や食事などの肉体的活動および精神的活動、そして気温や湿度など外的要因の影響を受けて変動します。夜間睡眠中は肉体的活動、精神的活動ともに低下しており、体温を上げる因子は基礎代謝による熱産生のみです。一方で気温は明け方に最も下がるため、体から熱を放出しやすくなるので、早朝には体温が最も低くなります。
朝起きてから体を動かし始めると、筋肉による熱産生、食事の刺激によるエネルギー代謝の増加、交感神経興奮による熱産生などによって体温が上昇します。これらの熱産生が午後にピークを迎えるのに加えて、気温も午後2時頃に最高となるため体から熱を放出しにくくなり、午後から夕方にかけて体温が最も上昇します。
少し古い論文ですが、東京大学の田坂定孝教授らが10〜50歳代の健康な人3094人(男性:1445人、女性:1649人)の体温を計測した結果によると、日本人の平熱(平均腋窩体温)は36.89±0.34℃だったそうです(日新医学、44-12、1957:p635-638)。つまり、37度を多少超えていても「発熱」とは限らないのです。※現代人の平均体温が下がっているという報告もありますが、正式に論文として発表された統計は見つけられませんでした。
皮膚温と深部体温
体温は測る場所によって違います。我々が体温を測るときによく腋窩で測りますが、これは体の表面の温度(皮膚温)です。医学的に重要なのは脳や内臓などの体の内部の温度で、深部体温と呼ばれます。
皮膚温は気温などの影響を受けて変化して、夏は高めに冬は低めになりますし、さらに体の中心から離れるほど低くなります。
最近の夏は気温が35℃を超えることも珍しくありませんので、暑い夏の午後に体温を測ったら自分の思っていた「平熱」よりずっと高い数字がでても不思議ではありません。体温が高い以外に何も症状がない場合、「コロナウイルス感染?」とあわてて心配する必要はないのです。
逆に「私は体温が35℃しかない」という方も居ますが、もし深部体温が35℃に下がると低体温症の危険ゾーンです。体は体温を上げようとして震えが止まらなくなるはずですが、そうならないのは体表の皮膚が冷えているだけで、内臓の温度(深部体温)は37℃前後に保たれているからです。
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