新型コロナウイルス第2波への備えと医療機関の苦境

日本ではコロナウイルス感染拡大防止に一定のめどがたち、5月25日の緊急事態宣言解除に引き続いて、6月19日には都道府県を跨ぐ移動の自粛要請も緩和されました。緩和後初の週末となった6月20日、21日には各地の繁華街や観光地、道路の賑わいがニュースで伝えられました。

6月21日(日)、サイクリング途中に立ち寄った京都市郊外の人気スポット「道の駅・ウッディ―京北」も、人が溢れていました。

一方で、東京では連日数十人の新規感染者が確認されており、6月24日には55人と緊急事態宣言解除後最多となりました。また、国外に目を向けると多くの国で新規感染者数が増え続けており、6月22日のWHOの発表では1日の感染者数が183000人、感染者の累計は880万人、死者数は465000人となっています。

前回の記事に書きましたように、厚生労働省が新型コロナウイルスの抗体検査を行ったところ、日本における抗体陽性率は感染者が多かった東京で0.10%、大阪で0.17%、感染者が少なかった宮城では0.003%しかありません。感染が多かった東京でさえ、1000人中999人は第2波がやってきたら感染する恐れがある予備軍なのです。

これから経済活動の再開に伴って、国を跨いでの人や物の移動も再開されると思いますが、世界の多くの地域で感染爆発が続いている状況を考えると、大きな不安があります。

3月~4月の第1波では、多くの大都市で感染患者を受け入れる病床がひっ迫し、感染患者への対応・院内感染防止のために通常の医療を縮小せざるを得ず、本来予定されていたがんの手術が延期されたり治療方針の変更を余儀なくされたりしたなど、医療崩壊寸前であったことが報じられています。

第1波を比較的小さな被害で乗り切ってひと段落したように見える今、第1波への対応を振り返って、第2波への備えを充実させるべき時期ですが、日本の病院の状況はどうなっているのでしょうか。

第1波のとき、医療機関は「出来ることは何でもやるしかない」と必死で戦いました。物資が足りないとか医療従事者が風評被害で差別されるとか、いろんな問題も顕になりましたが、一方で励ましや感謝の言葉も多く届き、各方面からの物的支援もあり、多くの医療従事者が頑張る支えとなりました。

5月29日には東京で医療関係者にエールを送るために、航空自衛隊のブルーインパルスによるデモンストレーション飛行も行われ、自衛隊中央病院の屋上から病院スタッフが飛行機に向かって手を振る映像がテレビでも報道されました。励ましや感謝の声を届けられて、もちろん悪い気はしません。しかし、「声」だけでは医療は続けられません。

第1波の感染拡大が本格化した時期、病院の経営状態などは度外視して、医療関係者は「出来そうなことは何でもやるしかない」という覚悟で戦いました。そのツケが病院の経営を圧迫し、体力を奪い始めています。

長年医療費抑制政策が続いてきた日本では、元々医療体制に余裕は殆どありません。よく言われるように、日本の医師数は人口1000人当たり2.4人とOECD諸国平均の70%以下で最下位に近いのです。(OECD Health Statistics 2019より)

ベッドや手術室をフル回転させて、医療従事者は独楽鼠のように働いて、やっと病院経営は成り立ってきたのです。無駄を省くというと聞こえは良いですが、別の言い方をすれば平常時でギリギリの状態、非常事態に対応できる余裕はどこの病院にもありません

そこに今回のコロナウイルス感染拡大。感染患者を受け入れるために入院患者を減らして空きベッドを作って待機し、さらに院内感染を防ぐために例えば4人部屋をひとりで使ってもらうなど病床数そのものも減らし、それでも感染者には通常の患者以上の人手が必要になり、病院によっては高額な医療機材も急遽追加購入し、等々いろんな負担がのしかかってきます。

さらに、どの医療機関も院内感染防止のために外来患者数を減らす必要がありますが、感染患者を受け入れた病院は風評被害でさらに患者数が減っています。このような状況で多くの医療機関が赤字に陥っています。

下のグラフは一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会による「病院経営状況緊急調査」の結果です。左のグラフは昨年4月に比較して今年4月は医業に必要な経費(赤)は98%台でほとんど減っていませんが、医業収入(青)は10数%減少していることを、右のグラフは医業による利益率が10%以上低下していることを示しています。

一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会による病院経営状況緊急調査(2020年5月27日発表)より引用

元々日本の病院に殆ど黒字はなく、2019年医療経済実態調査によると平常時の病院の医業利益率は▲2.7%(赤字)、医療法人では2.8%(わずかな黒字)となっていますので、利益率が10%以上落ち込むと大きな赤字を出していることになります。医療機関の存続さえ危ぶまれる状況になってしまっており、国からの支援がなければ経営難による医療崩壊の恐れがあり、第2波、第3波への備えどころではないのです。

以下は首都圏で中規模病院の管理者をしている友人から同級生のメーリングリストに送られた、医療機関の窮状を訴えるメールの要旨です。多くの方に医療機関の置かれた現状を知って頂くために転載致します。

  1. 第1波、コロナ患者18人。さいわい全員退院されてほっとしたところ、感染がぶり返してきて新たに中等症1人。
  2. 第1波のあいだ、16床のHCUを10床にへらしてコロナ専用病棟として使用。
  3. 発熱患者は、コロナが否定できるまで、コロナ疑い病棟に収容。ここは、一人一部屋にせざるを得ず(陽性と陰性が混ざってはまずいため)、47床の病棟を13床として使用。コロナ病棟も、疑い病棟も、防御のフル装備が必要。職員の負担大。発熱患者だというだけで専用の個室管理・感染防御を要するということは、コロナで医療の構造が変わったということ。従前のハード(病棟構造・人員体制)では対応できない。
  4. 上記のように、病床を減らさざるを得ず、手術も控えたため、予算収益6億/月のところ、4月9000万赤字、5月1億2000万赤字。(費用は、ほとんど不変なので、減収=赤字。もともと、低医療費政策のため、ベッド稼働94%=ほぼ満床で収支ギリギリのところ、5月は73%↓↓)
  5. 「(独)福祉医療機構」が9億融資してくれたが、このままでは、一年もたない。おまけに、たとえコロナがおさまっても返済できる見込みはなし。
  6. 政府は、重症コロナ患者の診療に対する手当は厚くするというが、赤字の中心である「つぶしたベッド」に対する補償はなし。同規模の急性期病院はどこも1か月1億程度の赤字。コロナをみていない小病院やクリニックも、患者減で同様。病院の倒産が相次ぐのは必至。日本医師会、日本病院会なども一致して、政府に前年並みの診療報酬の補償を要請している。どの業種も大変だが、医療は、消防や警察と同じ社会資源である。
  7. 医療を継続するためには、公的に補償してもらうしかないので、テレビ番組に出て、実名で窮状を訴えたら、風評被害が出た。

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